横浜マンション傾き事件について(関係条文の整理と今後の防止策)
国土交通大臣は、「杭工事を実施した旭化成建材だけでなく、すべての会社に責任がある。原因の究明と合わせて再発防止策を検討するため、対策委員会を設置する。」と発表しました。
この対策委員会により明らかになると思いますが、今回の建設工事(杭工事)における法律上のチェック体制と責任の所在等について、関係法令の条文を整理してみました。
結論から申し上げれば、当工事を担当する「監理技術者さん」と「構造の一級建築士さん」が法
令基準を遵守しチェックを行っていれば、今回のような杭工事の不正は確実に防げたということに
なります。
現行法令において、建設工事のチェック体制は十分整備されていますので、今後は、それをどう
やって確実に守ってもらうようにするかです。まずは本人の自覚の問題でしょうが、監理技術者さ
んや建築士さんが所属する会社の管理体制や人事の問題も大きく影響していると考えられます。
今後の防止策としては、上記の技術者等が、法令に従ってやるべきことを確実やれる体制を整備
することに尽きると考えます。
建設工事のチェックは、建設工事の専門的知識・経験を持つ者にしかできないという常識を改め
て認識すべきです。
以下、杭工事における法律上のチェック体制等について、関係法令の条文を整理してみました。
[建設業法]
◆ 建設業者は、請け負った建設工事を施工するときは、当該建設工事の施工の技術上の管理をつ
かさどる者として「監理技術者」を置かなければならない。(第26条 要約)
◆ 「監理技術者」は、工事現場における建設工事を適正に実施するため、当該建設工事の施工計画
の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理及び当該建設工事の施工に従事する者の技術上
の指導監督の職務を誠実に行わなければならない。
工事現場における建設工事の施工に従事する者は、「監理技術者」がその職務として行う指導に
従わなければならない。(第26条の3 要約)
[建築基準法]
◆ 一定規模の建築物の工事は、一級建築士の設計によらなければ、することができない。
◆ 建築主は、上記の工事を行う場合には、一級建築士である「工事監理者」を定めなければならな
い。この規定に違反した工事は、することができない。(第5条の4 要約)
[建築士法]
◆ 「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおり
に実施されているかいないかを確認することをいう。(第2条7項)
◆ 「建築士」は、工事監理を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認
めるときは、直ちに、工事施工者(工事の請負人・建基法2条)に対して、その旨を指摘し、当該
工事を設計図書のとおりに実施するよう求め、当該工事施工者がこれに従わないときは、その旨を
建築主(工事の発注者建基法2条・建設業法2条)に報告しなければならない。(第18条4項)
[工事監理ガイドライン]国土交通省
◆ 杭工事の際の確認方法は、目視及び計測に係る「立会い確認」により行う。
◆ 「立会い確認」とは、施工の各段階で、工事現場等において、工事監理者自らが目視、計測、
試験、触診、聴音等を行う方法、又は工事監理者が工事施工者が行うこれらの行為に立ち会う方法
により、当該工事又はその一部を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているか
いないかを確認することをいう。
自宅マンションは大丈夫!? 今後、購入時のポイントは!?
[自宅マンションの杭基礎の確認方法!]
まず、設計図(構造図)で確認する場合、図面では杭が支持層まで達していても、実際そのと
おりに施工されているどうか分かりませんので、基本的には設計図(構造図)だけで確認するこ
とはできません。
しかし、構造図(柱状図)で、杭の長さや杭の種類を確認することはできます。杭の種類には
「現場打ち杭」と「既成杭」があります。「既成杭」は設計図に基づき工場で杭を作るため、現
場で実際に杭を打ち込む際に短くて支持層まで届かないことがあります。こうした場合は、また
杭を工場で作り直すことになりますが、これには最低1か月の日数が必要となり、工期が迫って
いる場合などは、そのまま打ってしまう場合もあるようです。(今回の横浜のマンションで想定
されているケースです。)従って、杭の種類が「既成杭」の場合は少し注意が必要ということに
なります。
杭が支持層に届いているかどうか確認するには、多額の費用をかけてボーリング調査を行うこ
とになりますが、それでも基本的には外周のみの確認となります。
なお、比較的新しいマンションでは、杭を打ち込む際に撮った工事写真が残っていることが期
待できますので、管理会社などを通じて販売会社や工事施工会社に確認してみる必要はあると思
います。
また、一つの見方として、今回問題となったマンションの地域(横浜)は、起伏の大きい複雑
な地盤であったため、設計も困難で、杭の長さを起伏に合わせて細かく調整する必要がありまし
たが、平坦な地域の地盤に建てられているマンションでは、今回のような問題は比較的少ないと
考えることもできます。
そして、現実的な見方としては、「築10年を過ぎて何もなければ大丈夫」と考えるのが一般
的な構造の専門家の認識です。
もし基礎などの構造に問題があれば、10年以内には何らかの兆候がみられるようです。実際、
今回の横浜のマンションでも、2棟の手すりのずれが見つかる前から、「ドアが開閉しづらい。」
などの不具合があったようです。
[今後、購入時に確認すべきポイント!]
今回の事件を教訓に、これから購入する場合に是非とも確認すべきことは、杭打ち作業を行っ
たときの工事写真です。
普通一般的な工事現場では、完成時に隠れてしまい後から確認できない工程の部分は、必ず証
拠となる写真を撮っています。杭打ち作業は、当然完成時に隠れてしまう部分ですので、図面ど
おりに適切な施工を行ったことを証明するために、写真を撮る必要があるのです。また、殆どの
工事作業報告書には工事写真を添付することになっています。
また、構造図(柱状図)により、杭の深さ・本数と杭の種類を確認します。杭の種類が「現場
打ち杭」であれば杭が支持層まで届いていないといった今回のようなケースは、殆どないと考え
ることができます。